新型コロナウイルス・オミクロン株は、遺伝子の差異によって「BA.1」「BA1.1」「BA.2」「BA.3」「BA.4」「BA.5」の6つの系統に分かれています。
4月から5月にかけて、これまで主要だった「BA.1」系から「BA.2」系に置き換わり、その割合も98%におよぶと予想されていることは、皆さまご存じの通りです。
オミクロン株は、1人が何人に感染を広げるかを示す「実効再生産数」が高いほか、1人目の感染者から2人目にうつし発症させるまでの時間も短いため、きわめて広がりやすい特徴をもちます。しかも「BA.2」系の流行によって、それがさらに加速されるといわれています。
そのため5月GW以後、7波の本格化が予想されているのもうなづけます。
コロナ診療はまだまだ落ち着く気配がなさそうです。
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一方、内科は並行する日常診療の方も相変わらず多忙で、
コロナを含む発熱外来の実施と保健所への報告義務、ワクチン集団/個別接種のみならず、
一般の急性疾患や慢性疾患の治療、風疹/子宮頸がんワクチン事業への関与、成人健診の充実と小中学校健診への出張、頻繁に改正される保険への対応と請求業務、あふれるばかりの電話や書類への対応なども求められています。
それにこの数週の間だけでも当院では、
心筋梗塞の発症、急性心不全、発作性心房細動、房室ブロック、解離性大動脈瘤、出血性胃潰瘍による高度貧血、大腸から下血、サルモネラ胃腸炎の腹痛、虫垂炎/憩室炎の発熱疼痛、急性間質性肺炎の呼吸苦、喘息発作、睡眠時無呼吸症候群へのCPAP導入、慢性呼吸不全の在宅酸素管理、痛風発作、尿路結石、認知症の相談、慢性腎不全の急性増悪、ネフローゼ症候群の発症、膵臓IPMN、新たに見つかった前立腺がん、脳腫瘍、骨髄異形性症候群・・そして漢方診療、
さらに酸素を投与しながら点滴、高次医療機関への救急搬送などに追われました。
コロナが流行ってから内科系はどこも離職がすすみ、人手不足です。
当院も例外ではありませんが、それでも毎日、看護師と医療事務の女性たちと私一人の医者が、弓なりになって頑張っています。
ですので、皆さま多少気に入らないことがあっても、イライラして文句だとか、忙しくてもそれが仕事でしょ、ではなく(医療スタッフも人なので)ご理解してくださればうれしく思います。
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ところで、コロナ感染後遺症による精神・神経症ですが、イライラのみならず、割と記憶障害、集中力低下、不眠、頭痛、自律神経失調症状など、を訴える方がいらっしゃいます。
東洋医学では、ストレスが関与し、気分がうっ屈した状態を『肝気うっ結(かんきうっけつ)』といい、その治療に、気を調節する生薬つまり気剤(きざい)を用います。
そこで前回まで述べた生薬の「柴胡(さいこ)」です。
これも気剤のひとつであり、それを含む精神安定剤には『四逆散類(しぎゃくさんるい)』があります。
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四逆散類の主人公は、なんといっても「①四逆散料(しぎゃくさんりょう)」です。これはとても強力な精神安定剤です。
その一つ目の特徴は、中に「②芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」という薬が含まれていることです。
ちなみに芍薬甘草湯は、足のこむら返り(けいれん)の治療薬として知られていますが、筋肉のこわばりだけでなく、心のそれも緩和させられます。
つまり「四逆散料=芍薬甘草湯(芍薬、甘草)+柴胡、枳実(きじつ)」の方程式が成り立つので、抜群の精神安定作用がもたらされるというわけです。
そしてもう一つの特徴は、四逆散料には兄妹弟がいるということです。
兄貴は「③大柴胡湯(だいさいことう)」
妹分は「④加味逍遙散料(かみしょうようさんりょう)」
末弟は「⑤抑肝散料(よくかんさんりょう)」
これら『疎肝解うつ剤(そかんげうつざい)』は、患者の体力や神経の高ぶりの度合いによって使い分けられています。
一般的に、疎肝解うつ剤が適合するのは
イライラしている
カッとなって怒る
ウジウジしている
モヤモヤしている
といった性質の方々なのですが、
症状としてコロナ感染後の、記憶障害、集中力低下、不眠、頭痛など、精神・神経症を呈している場合は、特に考慮されるのです。