患者さんの脈を診ていると、実に緊張している方が多いと感じます。脈が、血管の端と端をつまみ、ねじり絞ったように固くなっているのです。
この脈を「弦(げん)」といいます。
これは、ストレスに端を発しています。
ストレスは、生活環境であったり、病気であったり、由来はさまざまですが、遷延すると身体に影響し大きな疾患につながります。
それは例えば、血圧や血糖が上がり、血栓もできやすくなる、などです。
ですので、意識してリラックスすることが大切です。
その方法は、趣味、エクササイズ、ペット、旅行・・・なんでも結構です。緊張しい方は、あえてリラックスできる状況をつくって身をおきましょう。
つまり日ごろから緊張度の高い方は、それと同程度、有意義なリラックス法を持つことです。
もし費用のかかるものであれば、自分の健康にかかわることなので、”お金のかけどころ”と考えておくのも悪くありません。
これが未病を防ぐため必要な「陰陽のバランス」なのです。
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ところで、
新型コロナウイルスに感染した後、自律神経失調症状に悩む方がいます。
ちなみに「自律神経」とは全身のバランスを無意識下に整える神経系のことです。これには、
・体の活動を促す「交感神経(こうかんしんけい)」と
・体に安息をもたらす「副交感神経(ふくこうかんしんけい)」とがあり、
交感神経は、体を興奮させるように働き、血圧・脈・体温を上げるもの、
副交感神経は、それらを下げるもの、つまりは体をリラックスさせるように働くものです。
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自律神経失調症は、交感神経が優位になって起こるもので、それには、
(1)全身症状
だるさ、不眠、疲れが抜けない、手足のしびれ、関節痛、神経痛
(2)身体症状
頭痛、めまい、肩こり、動悸、息切れ、のどのつまり、多汗、お腹の症状
(3)精神症状
集中力の低下、根気の低下、外に出たくない、人に会いたくない、落ち込み、不安
などがあります。
治療は、優勢な交感神経をおさえ、劣勢な副交感神経を賦活することですが、西洋医学にはこれらを治す特効薬がありません。
一方東洋医学には、ゆがんだ陰陽を調和させる気剤(きざい)があります。
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気剤の代表は前回までの四君子湯(しくんしとう)類や柴胡(さいこ)剤ですが、他に
(a) 理気(りき)剤
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
香蘇散料(こうそさんりょう)
(b) 安神(あんしん)剤
柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
(c) 瀉心湯(しゃしんとう)類
三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
(d) 承気湯(じょうきとう)類
大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)
調胃承気湯(ちょういじょうきとう)
大承気湯(だいじょうきとう)
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
などがあります。
これらは「緊張とリラックス」「陽と陰」「交感神経と副交感神経」のバランスを整えるべく”橋渡し”をするお薬です。
新型コロナウイルスは、既知のものではないため後遺症の原因は明確ではありません。そのため標準化された対処法も見つかっていません。
となると、人の身体に起こる不定な症状に、大なり小なり自律神経が関わっているものと考え、気剤を用いた陰陽橋渡し療法をためしてみるのも有効なのです。