今回は鼻水の漢方薬で有名な『小青竜湯(しょうせいりゅうとう)』の話です。
さて前回お話の漢方薬「葛根湯」には
(a)生薬の麻黄(まおう)が使われている
(b)桂枝湯(けいしとう)の発展処方である
の2つの特徴が含まれます。
実は小青竜湯にも麻黄が含まれているので、葛根湯と同様、麻黄剤(まおうざい)とよばれています。
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ところで麻黄というのは、組み合わせ生薬によって、発揮される作用が変化します。
たとえば
〇麻黄 + 桂枝 汗を出す作用
〇麻黄 + 細辛 尿を出す作用
〇麻黄 + 石膏 熱を冷ます、汗を止める作用
〇麻黄 + 杏仁 咳をしずめる作用
〇麻黄 + 朮 尿を出す作用
〇麻黄 + 乾姜 肺を温める作用
〇麻黄 + 薏苡仁 痛みを止める作用
〇麻黄 + 附子 寒さを散らす作用
つまり麻黄に含まれる色々な成分が、組み合わせる生薬によって、賦活(ふかつ)されたり、抑制されたり変化するのです。
葛根湯はこのうち、発汗が意図された漢方薬といえます。
小青竜湯の構成は、
麻黄
桂枝(けいし)
甘草(かんぞう)
芍薬(しゃくやく)
乾姜(かんきょう)
細辛(さいしん)
半夏(はんげ)
五味子(ごみし)
であるため、効能は
(1)麻黄と桂枝で発汗させ、体内に侵入した邪を退治できる
(2)麻黄と乾姜で、肺を温める
(3)麻黄と細辛で、体内の不要な水分をはき出す
などが期待できます。
これを利用して、“冷たい空気によって、鼻の奥が冷やされ生じた鼻炎”、に用います。
つまり、”鼻粘膜が蒼白化する”場合の主な症状は、透明な鼻水やくしゃみ、ですので、花粉症の治療に都合がよいという訳です。
ちなみに2000年前の中国医書『傷寒論(しょうかんろん)』には、「小青竜湯は、しきりにくしゃみをする、水様の鼻汁が出る、痰のからまった喘鳴が生じる、そんな“心下に水気(しんかにすいき)した状態”に用いると良い」と書かれています。
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では今、小青竜湯が冷えた鼻粘膜に適当、とあれば、逆に
“鼻粘膜が熱を帯びて、赤く腫れた鼻炎” は、どうでしょう。症状といえば、鼻閉(鼻つまり)です。
この場合、小青竜湯だけでは効能不足なので、
(4)麻黄と石膏(せっこう)で熱を冷ます
作用を考慮します。
ただ残念ながら小青竜湯には石膏が含まれていません。
そのため煎じ薬であれば、石膏を混ぜ合わせます。
またエキス剤であれば、
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
桔梗石膏(ききょうせっこう)
など、石膏を含む漢方薬を併用します。
西洋医学では、抗生剤やアレルギー剤など、耳鼻科でも内科でも、大学病院でも診療所でも、通り一遍の治療が行われます。
でも東洋医学では、思考に深みのある処方が展開されているのです。