発熱性感染症の場合、もともと体力のない方は、体調不良が長引くことがあります。
症状は主に、だるさ、しんどさ、胃腸症状、自律神経症状です。
東洋医学では、このような状況を”体の新陳代謝の落ちたステージ”と考え、それを回復させるための治療を行います。
前回述べた「太陰病(たいいんびょう)」というステージは、まだ悪い状態ではないため、治療も行いやすいものです。
しかし少し深いところまで、体力や新陳代謝が低下すると、本人も治療も大変になります。
そのステージを「少陰病(しょういんびょう)」といいます。
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少陰病は
◎攻病力がなく、病邪の勢いが明らかに優位な病位
◎新陳代謝の沈衰した虚弱した状態
というものです。
まさに体の充電が減った状態といえます。
ちなみに2000年前の中国古医書『傷寒論(しょうかんろん)』で少陰病は、
『少陰之病(しょういんのやまい)たる,脈微細,但(た)だ寐(いね)んと欲す)』とあり「横になって、ただ寝ていたい」状態と書かれています。
そしてこのようなときの治療に「真武湯(しんぶとう)」を用います。
真武湯は、傷寒論では
『少陰病、二三日已(や)まず、四五日に至り、腹痛、小便不利、四肢沈重、疼痛、自下利(じげり)の者、此(こ)れ水気有りと為(な)す.
其人或いは咳し、或いは小便利し、或いは下利し、或いは嘔する者、真武湯之を主(つかさど)る 』とあり、新陳代謝が沈衰した虚弱者の諸症状に用いるとなります。
構成生薬は、
●茯苓(ぶくりょう)
●芍薬(しゃくやく)
●朮(じゅつ)
●生姜(しょうきょう)
●附子(ぶし)
薬効は、おへそ周辺の冷えが目立つことを前提に
「茯苓」がお腹の動悸を改善させ、
「芍薬」が下腹の滞り、つまり
(右上腹部のガス満・腹筋の緊張)を治し、
「附子」が沈水した新陳代謝を持ち上げる
などによって、体調を回復させます。
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さらに昭和の漢方名医 藤平健先生は、この真武湯が適応となる対象者を以下にように述べました。
(1)雲の上を歩くようで、地に足がついていない人
(ふわふわして宙に浮いたような浮遊感)
(2)真っすぐ歩こうとしても、横にそれる人
(3)誰かと歩いていて、寄りかかってしまいそうな人
(船酔いしたときのような斜行感)
(4)腰掛けていて、クラッとし地震かなと感じる人
(地震感)
(5)目の前の物がサーッと横に走るような眩暈のある人(横走感)
外来では虚弱体質の方を真武湯で治療する場合、これらの傾向は参考になるものです。
発熱性感染症の後、体力のない方、低下した方の、遷延した体調不良に真武湯がぴったりといえます。