不安定な心の在り方を変えるため、東洋医学では、「移精変気(いせいへんき)」という方法があります。
これは、『気持ち(精)をまったく別の所にずらし(移し)、転換させる(変気)させる手立て』のことをいいます。2000年前の中国の医書「黄帝内経素問」に、その表現がでてきます。
日本では江戸時代に、今泉玄祐(いまいずみげんゆう)という医師が、暗示をかけたり、おおげさな演技をしたり、気持ちの迷いを解くための方法を紹介しています(1850年 療治夜話)。
その中にみる「病者の心を変じて治すための演技」を二つほど、
(1)ある人がボウフラの水を飲んだら神経を病み、痿隔(食道の狭窄症状)によって、食べられなくなってしまった
その患者を治すため、巴豆(はず)を飲ませて、わざと下痢をさせ、(下痢に)赤い糸くずを混ぜて見せてやった
そして「下痢とともに、お腹のボウフラはこの通り出てしまったよ」と言い聞かせたところ、ノイローゼはすっかり治ってしまった‥
(2)ある女が実家の母の死を悲しみ、ノイローゼになっていた
治療を担当した韓世良という医師が、霊媒師に死んだ母を呼び出させ、母の霊が女にひどく嫌がらせを言っている、そんなふりをさせた
それを見た女は「自分は、こんな嫌味な母を慕っていたのか、実にバカバカしい」と思うようになった
そうしたら、ノイローゼがすっかり治ってしまった‥
これは「暗示やわざとらしい演技だけでも、心の在り方を変えたら、ノイローゼが治ってしまった」というお話です。
悩みをかかえこみやすい方は、内向き・後向きの考え方をしていることが多いものです。
自分でその癖に気が付いたら、考え方を変え、気持ちが偏りすぎない工夫をしておくと良いでしょう。好きなことをして楽しむのも良いことです。これが、気をそらしておく、ということです。
他に、心の風船がパンパンにならないよう、気持ちのどこかに穴をあけておくのも良いですし、あえて「見ない、聞かない、言わない」スタンスを貫いても良いのです。
自分なりの、心を移し変える「移精変気法」を持っていると、少しタフでいられるのです。