漢方では、体の様子を観察するために、脈を診ます。
脈で何が分かるのか...
脈を診ると、その方の体力から、病気の状態、こころの様子まで判断できます。
調子が悪くなって病院にかかると、西洋医学では、いくつかの検査が行われます。データに異常があれば、精密検査を勧められたり、お薬が処方されたりしますが、異常がないと「問題ありません」と片付けられてしまいます。
そして「気のせいかもしれません」「心療内科へどうぞ」と、思わぬ方向に話がすすんでしまう、なんてこともあります。
症状を感じているのに、何もないなんて... そんな矛盾についイライラしてしまいます。
これは、自律神経の不調が西洋医学の検査では分かりにくく、病名が定まらないためにおこってしまうものです。症状も多彩で具体性に欠けると、扱いが難しくなってしまうことも関係しています。
では東洋医学ではどうでしょう。
この医学は、脈の在り方を診て、自律神経の変調を判断しています。
たとえば不調の裏に、ひどいストレスや落ち込みがひそむ方では、ビーンと張りつめた緊張の脈が現れます。これを「弦(げん)の脈」といいます。
まさに弓をイメージしたものですが、和弓やアーチェリーではなく、古い中国で使われた弓の弦のことを表しています。
脈診では、手首とひじに走る一本の血管(脈絡)に張りつめた様相を把握します。
また元気がなくなっている方では、か細く沈み込む弱い脈が現れます。これを「弱(じゃく)の脈」といい、程度がいちじるしいと「微(び)の脈」に変化します。
脈の数をみても、体力や病気の状態、こころの在り方よって、増えたり減ったりします。おそらく "アドレナリン" が、血管を締めたり緩めたり、速めたり遅めたりしているのでしょう。
東洋医学では、体もこころも一緒に変わると考えているため、脈の変化をもって、体全体の異常を判断します。
当然それを感知できる漢方医の指先も、繊細でなければなりません。
私は西洋医学的な診察であっても、東洋医学流の脈診をこころがけており、いつも25個前後の「病脈」を思いながら、診療を行っています。