漢方では舌を診ます。それは、体調を表現する臓器の一つとして考えているからです。
舌は変化します。特に舌の表面につく苔は、病気の重さ、受けている治療の是非によって様子が変わります。その人の生活習慣まで見て取れるので、まるで体の中を覗き込む窓のようです。
舌の苔は、全く欠けている無苔から、濃く見える状態(有苔)までいろいろです。
苔の生え始めは『白色』ですが、体熱によって『黄色→灰色→黒色』と変わります。熱とは体温の高いものから、冷えて体力を損ねた状態までを含みますが、段階を経て体調が悪くなると変化するため、わかりやすい指標となります。
ただ変化する理由は、西洋医学的な視点では分かりにくいものといえます。
当院での観察では、乳がんの抗癌剤治療を受けてこられたある方は、灰色の苔が生えていました。認知症の治療を受けていた方も、黒色化した舌苔をみせていました。
本来ならこの段階で治療の再考を要するのに、西洋医学では同じ薬が続けられてしまいます。ここに、体全体ではなく局所の疾患を優先させるその医学の残念な面があります。
ところで漢方では、舌の様子を参考に体調を回復させることをもくろみます。
当院に、前立腺癌の手術後から体力を損ねてしまった方がいました。泌尿器科医から、もう治っています、と治療の終了が告げられていたのですが、やっぱり調子が悪いのです。舌には乾燥した黒色苔が生えていました。
そこで漢方を処方してみました。治療は数年に及びましたが、調子は回復し、それとともに舌苔も改善しました。今では「おかげさまです・・」と、笑顔でお話しなされています。
西洋医学では検査が主体となり、医師も患者さんも、客観的な指標としてこれを重視しています。それはそれで良いのですが、一方で症状があって困っているのに、検査で異常が見られないから「問題なし」と終了されているケースも見られます。
そのような時、東洋医学的な診察を受けてみるのも良いかもしれません。