70歳台女性、慢性的に足腰の痛い方です。彼女曰く、
整形外科では椎間板ヘルニアと腰椎すべり症があるといわれました。この状態では脊柱管に狭窄が生じており、症状は慢性なのだそうです。痛み止めや湿布をもらいましたが良くなりません。歩けるうちは手術にならないそうです。
そこで整骨院や鍼灸院にも通ってみましたが、症状が緩和するのはひと時だけ。最近では、坐骨神経の症状もひどくなりました。
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この方に私は『桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)』という漢方薬を処方してみました。
これは『桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)』に「茯苓(ぶくりょう)」を加えたお薬です。
実は神経症状のひどいときは、神経の周辺にむくみが生じている印象も強く、それを取り除くため「朮(じゅつ)、茯苓)」や、体を温める「附子(ぶし)」の利水(りすい)の生薬に期待をします。
桂枝加朮附湯や桂枝加苓朮附湯は、江戸時代の著名な漢方医「吉益東洞(よしますとうどう)」の医書「方機(ほうき)」に、"湿家(しっか)にして骨節疼痛するものに良い"と紹介されています。
湿家、つまり湿っぽい体質のある方が、関節痛、神経痛を訴えるようなときに用いられるのです。
その桂枝加苓朮附湯は、明治初期のころ「浅田宗伯(あさだそうはく)」という漢方医によって、フランス公使の治療にも使われています。
彼の著書によると、公使は落馬して足に大けがを負ってしまいました。しかしこのお薬が奏功し、彼の名声が当時のヨーロッパにまで広がったそうです。ナポレオンから感謝状が贈られたことまで記録されています。
ちなみに浅田宗伯は「浅田飴」に名が残されている漢方名医です。
初期の関節痛や神経痛であれば、『麻黄加朮湯(まおうかじゅつとう)』や『越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)』のような麻黄(まおう)剤も考えます。
ただ桂枝加苓朮附湯とは脈の様子が異なり、今回のような慢性的でかつ脈の弱い方には用いられません。漢方外来では、これらを見分けて処方しています。
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ところで先ほどの患者様です。
その後、整形外科で椎間板ヘルニアに対してレーザ治療を受けられたそうです。
ただ坐骨神経痛は残ってしまいました。そのためこのお薬を続けておられます。外来では「おかげさまで何とか生活ができています」とお話しをいただいている次第です。