前回までは「手足が冷える」冷え症がテーマでした。
実は冷え症は体表の冷えばかりではありません。「胃腸が冷える」ことが問題のこともあります。
体の表面を「表(ひょう)」と呼ぶのに対して、内臓とりわけ胃腸を「裏(り)」と表現し、その場所の冷えを「裏寒(りかん)」といいます。
今回は、この「裏寒(胃腸)の冷え症」についてお話をいたします。
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41歳女性、身長156㎝、体重50㎏。
悩みは「お腹が張る」という症状です。
お話を伺うと、ガスがお腹の上まであがってきて膨れてしまう、左のわき腹がきゅっとする、お腹がグルグル鳴る、朝方にゆるい便が出やすい、などの症状があります。
このような方の多くは、すでに胃腸の内視鏡検査を済まされています。でもたいていは大きな問題が見つからず、過敏性腸症候群や機能性胃腸症などの病名をいただいてきます。ただ胃腸のお薬を飲んでも、なかなか効果が実感できないことが難点です。
さらに悩みは、お腹だけではなさそうです。
背中から太ももにかけて、シンシンと底冷えする、
顔から頭のてっぺんにかけ引っ張られる、
生理のときは腰回りが重く冷たい、などなど。
どうやら体表の冷えも伴っています。底冷えしているせいで、温かい物が好物、お風呂も長湯なのだそうです。
本当は、もう一人子供がほしい様ですが、なかなかうまくいかないそうです。基礎体温表をみせていただくと、やっぱりバラバラでした。
冷えはどうやら体の芯から全身に広がっていて、手ごわそうです。
さあ、そのような場合は漢方の出番です。
このような方のお腹には冷感があります。とくに「中脘(ちゅうかん)」という胃の中央付近にあたるツボは冷えきっています。
そうなると、「人参湯(にんじんとう)」を処方してみます。
これは、人参を中心に甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)などの生薬が合わされたお薬で、体の裏を温める作用が期待できます。
さらに冬には、附子(ぶし)を足してみました。
これは「人参湯加附子 にんじんとうかぶし(=附子理中湯 ぶしりちゅうとう)」という名でよばれる漢方薬です。
このように、体を温める生薬である乾姜と附子がそろうと、体の芯に火種をもたらすことができるのです。
実際これを飲んでいただくと、お腹からガスが出てきました。それに胃腸(裏)が落ち着いてくると、今度は体全体(表)が温まってきました。
このように時間をかけ、ようやく調子が回復してくるのです。
「漢方トゥデイ」ラジオ日経 2016年放送分から改変