インフルエンザや新型コロナウイルスなどに感染すると、当初は「熱、頭痛、関節痛、のど痛、鼻水、咳」などが中心であっても、時間とともにそれらが変化してくることがあります。
たとえばそれは、だるさや遷延する胃腸の症状です。
風邪の後期に倦怠感や胃腸の症状というと、不思議な印象を受けるかもしれませんが、
新型コロナ感染後遺症で来院される患者さんには「吐き気、胃もたれ、胸満、腹満、未消化下痢、腹痛」がダラダラ長続きした方も少なくありませんでした。
これを一般的な西洋医学で治療をとなると、お腹が張ったり痛い・・ですから、やはり胃酸を抑えたり、消化を助ける薬、胃腸の蠕動を調節する薬がメインとなります。
でも治ったり治らなかったりしていたようで、これについては経験ある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方の東洋医学では、これらを“虚性腹満”と考え、お腹のガスに端を発すると考えます。
つまり、熱の病気によって体がひどくダメージを受け、そののち体力や代謝が落ちてしまった、胃腸の働きも落ちてしまったととらえます。
たいていは胃腸に“新たな疾患”が生じたのではなく、新陳代謝の火種が消えて、内臓が冷えてしまったイメージです。
その東洋医学では、感染症の経過には段階があって、前期を“発熱する過程の陽証期”、後期を“体が冷える過程の陰証期”とします。
治療は、西洋医学では前段階のみ、東洋医学では双方の段階に切り込む点が違いといえます。
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古典的には、
2000年前の中国医書『傷寒論(しょうかんろん)』に、陰証期の第一段階「太陰病(たいいんびょう)」の症状について記載があります。
「太陰の病たる,腹満して吐し,食下らず,自利(じり)益々甚し(はなはだし),時に腹自ら痛む。若し之を下せば,必ず胸下結鞭(きょうかけっこう)す」と。
治療は、お腹のあたり、中焦(ちゅうしょう)に焦点をあてて、その部分の火種を回復させます。その近くには有名なツボ 丹田(たんでん)もあります。
中焦はそもそも、食物を取り入れ、血(栄養)に変える働きがあるので、中焦を建て直す薬として「建中湯類(けんちゅうとうるい)」が用意されています。
つまり「中気が飢えて虚し、脾弱不運なれば胃気は巡らず・・故に建中するべし」となります。
代表的な建中湯類には
「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」や
「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」があります。
特徴は、
◎桂枝加芍薬湯
太陰病に変わり、裏(内臓)が冷えて生じる腹症の者に対し、緩急止痛・鎮痙を促す薬。
症状緩和を意図するもの。
◎小建中湯
裏が虚して、脾気虚(消化不良)の者に対し、補脾建中を促す薬。
桂枝加芍薬湯+膠飴(こうい:漢方薬における飴成分)の構成で、虚弱な体質を改善させる意図も含むもの。