ひとたび感染症にかかると、初めは「熱、頭痛、関節痛、のど痛、鼻水、咳」などであっても、時間とともに様子が変化してきます。
「だるさ」はもちろんのこと、徐々に「吐き気、胃もたれ、胸満、腹満、未消化下痢、腹痛」などの胃腸症状が生じてきます。
新型コロナウイルス感染症の場合、2カ月以上体調不良が長引く方も多く、感染後遺症への治療を求め来院される方もいらっしゃいます。
そこで東洋医学では、このような段階を”体の新陳代謝の落ちた太陰病(たいいんびょう)”と考えて、温めつつ代謝を回復させる治療を探るわけです。
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ところで、太陰病とは
熱の病気によって体がひどくダメージを受け、体力や胃腸の働きまで落ちてしまったとステージのことをいいます。
これはお腹に“新たな疾患”が生じたわけではなく、新陳代謝の火種が消え、体の奥・内臓が冷えている状況をさします。
治療としては始めに建中湯類の
「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」や
「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」
を用います。これらの薬は "お腹の中焦(ちゅうしょう)"の働きを回復させる、“中を補う”ことができます。
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ところがこれだけではまだ「食べることができない、食欲があがらない、吐き気さえする」という方もいらっしゃるので、次に同じ建中湯類の
「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を用います。
これには生薬の「蜀椒(しょくしょう)」「乾姜(かんきょう)」が含まれているので、お腹の中焦を温める、“温中する”ことができます。
中国古医書『金匱要略(きんきようりゃく)』には
『心胸中(しんきょうちゅう),大寒(だいかん)痛し,嘔して飮食する能わず(あたわず)。腹中寒え,上衝して皮起こり,出で見るれば頭足あり。上下痛み觸れ近づくべからざるは,大建中湯之を主る(これをつかさどる)』とあります。
つまりお腹が冷えると「吐いてしまって食べることができない、鼓腸をきたす、痛む」というわけです。
実際、軟弱なお腹に(しこりと間違えそうな)モコモコ長い便塊やガスを確認できることもあり、そのようなときは、小建中湯の“補う”作用ではなく、“温める”大建中湯を用いるべし、ということです。
要は、
- 軟弱なお腹の方
- 体の冷えによるお腹症状のある方
- ゴロゴロ鳴るお腹の方
- ガスや便のたまりが触れるお腹の方
に大建中湯は有効です。
さらにこの薬は、それだけの作用にとどまらず、
- やせた高齢者の慢性便秘
- お腹の手術をした後に腸が癒着し、腸閉塞をきたしやすい方
にも応用でき、重宝される理由となっています。