前回、東洋医学でもこころのトラブルを対処していることをお話ししました。
こころの問題は、複雑な現代の問題と思われがちですが、実はそうでもなさそうです。
中国7-10世紀 唐の時代に「特に女性は治療が難しい」と述べている医書があります。
『備急千金要方(びきゅうせんきんようほう)』
- 婦人病の処方が色々あるのは、妊娠、出産、崩傷が、それぞれ異なるからである
女性は男性に比べ、十倍治療がむずかしい。
- 女人の嗜欲は男子より多く、病になる機会は男子の倍(二倍)ある。さらに慈悲、愛憎、嫉妬、憂憤(心配ごと)がつきず、情を抑えることができないので、病根は深い。
このように古い医書には、こころのトラブルに関するたくさんの文言が出てきます。
ですから、お薬もこころの在り方を変える貴重なものがたくさん記されているのです。
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さて、こころ、すなわち精神に効かせる薬は、東洋医学の基本的考え方にある「気・血・水」のうち『気』の扱いが重要となってきます。
気とは、体をめぐるエネルギーであり、体全体を上下隅々まで行き来している、と考えられているものです。
まるで首都圏の路線図のようですが、路線と異なるのは目に見えないことです。
これらによって精神、自律神経、内臓の動き、ホルモン、免疫力、神経の伝達などが支えられるとイメージされます。
さて気は体全体を流れるため、異常が生じると、体の様々な箇所に”ゆがみ”が生じます。
気のゆがみには、次のようなものがあります。
(1)気虚(ききょ)
(2)気うつ
(3)肝気うっ結
(4)気逆(きぎゃく)
気の“ゆがみ”を述べる前に、
そもそも、ゆがみとは…
健康な身体の様子を正円(〇)に例えるなら、病気のゆがみには、
「円から外側にはみ出すようなもの」と、
「内側にへこむようなもの」とがあります。
円から外側にはみ出す『突出型のゆがみ』は、モノが過剰になっている様子のことをいいます。これを「元気」のあり方で表現すると、あふれてしまって、イライラ、かっとなっている状態を示します。
一方、円から内側にへこむ『へこみ型のゆがみ』とは、モノが不足している様子のことをいいます。つまり、元気がなく意気消沈、ウツっぽくなっている状態を示します。
ここに生じるのが(1)気虚(ききょ)(2)気うつ(3)肝気うっ結(4)気逆(きぎゃく)というわけです。
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漢方的な治療は
『突出型のゆがみ』には、過剰な部分を削りとるため瀉剤(しゃざい)をもちいます。
これは、体外に過剰な気を吐き出すためのお薬であり、気をダイエットする、引き算の治療です。
逆に『へこみ型のゆがみ』の漢方治療には、足りない部分を補うため補剤(ほざい)をもちいます。
これは、気を生み出すためのお薬であり、気を増す、足し算の治療といえます。
またお薬以外に生活の中で工夫できるとしたら、
『突出型のゆがみ』には、「体を動かす」ことが最適です。これによって、余分なエネルギーを消費・発散させることができます。
『へこみ型のゆがみ』には、「よく食べる」「よく眠る」ことが適当です。これによって、新しい元気をひきだせます。