「気」は体全体を流れるため、異常が生じると、体の様々な箇所に”ゆがみ”が生じます。
気のゆがみには、次のようなものがあります。
(1)気虚(ききょ)
(2)気うつ
(3)肝気うっ結
(4) 気逆(きぎゃく)
● 気虚
気虚というのは、全身をめぐる「気」が足りない状況をいいます。
・気が足りなくなると、元気が無くなります。
・食べる気力も失せます。げんなり、げっそり‥という感じです。
・食べると眠くなる方もいらっしゃいます。
気虚では、胃腸の働きが損なわれているため、食べても熱が作られず、いつも体の底から冷えています。
胃腸の冷えは慢性的な胃もたれや消化不良を作るため、便秘と下痢を交互につくります。
本人は、何を食べても太れない、痛み止めや抗生剤を飲むたびに胃がやられるやすい、などと悩んでいることもしばしばです。
おなかを診察すると、虚弱な体の線に加え、胃のあたりに“ポチャンポチャン”と水の溜まっている音が聞こえてきます。
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治療では、
気虚には「気」を補う工夫をします。これを「補気(ほき)」「補脾(ほひ)」といいます。
ちなみに脾とは胃腸のことをさすので、要が胃腸の働きを補うことにあるとわかります。
ところで薬は、4つの漢方が中心となります。
まず『人参湯(にんじんとう)』
これは精力を高める生薬の「人参」と「乾姜(かんきょう)」が胃腸を補います。
冷えの度合いが強く、一段と体の弱い方には、生薬の「附子(ぶし)」を合わせた『人参湯加附子(附子理中湯)』で治療を開始することもあります。
次に『四君子湯(しくんしとう)』
これは人参湯から派生した薬であり、中に「人参」が含まれています。
胃腸の“ポチャンポチャン”にかかわる水気を除くため、生薬の「朮(じゅつ)と「苓(ぶくりょう」が含まれています。茯苓には精神安定作用あるので、精神安定にも作用してくれます。
『六君子湯(りっくんしとう)』
四君子湯に、生薬の「半夏(はんげ)」と「陳皮(ちんぴ)」が加えられた薬です。舌に白い苔が生えている方であれば、なお適当となります。
最近は西洋医学を中心とした病医院でも処方されている有名な薬であり、胃薬の漢方薬の代名詞となっていますが、本当の役割は補気、補脾にあります。
最後に『補中益気湯(ほちゅうえっきとう)』
この薬は、コロナ後遺症の治療で頻繁に使われるようになりました。
特徴は「柴胡(さいこ)」が含まれていることです。
もともとは1000年前の中国で、戦に次ぐ戦によって生じた慢性疲労、倦怠感、微熱を治すため作られたもので、薬名のとおり「中(胃腸)を補って、気を益す」ことが目的の薬です。それを現代的な解釈によって適応を選び、用いています。
臨床の現場では、まずはこれら4つ補気剤から、気虚の治療を考慮します。